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年賀状で “A Happy New Year” という表現を見ますが、実はこれは間違いで、正しくは “Happy New Year” なのです。しかし、なぜ A がいらないのでしょうか。
“Happy New Year” に省略されている言葉から、“Happy New Year” に A がいらない理由を解説しました。編集部の遠藤と今井が対談形式でお送りします。
目次
A Happy New Year は正しい?間違い?
今井 いまパソコンで年賀状を作っているんですが、新年のお祝いの言葉として “A HAPPY NEW YEAR” と書かれたテンプレートがあったんです。これって、”A” はいらない気がするんですけれど、どうでしたっけ?
遠藤 お祝いの言葉としては “A” はいらないですね。“HAPPY NEW YEAR” で大丈夫ですよ。
今 やっぱりそうですよね。”A HAPPY NEW YEAR” には違和感を覚えたんですが、なんとなくよく見かけるような気がして…。それに何がダメなのかも、よくわからないんですよね。
遠 確かに。それでは今回は “a happy new year” を取り上げて解説してみましょうか。
“Happy New Year”(ハッピーニューイヤー)に省略されている言葉
遠 この “Happy New Year” というフレーズですが、実は省略されている言葉があります。元々は “I wish you a happy new year.“(あなたが幸せな新年を迎えますように)という表現だったんです。(構文解説)
今 ”Merry Christmas” が “I wish you a merry Christmas.” の省略だったのと同じですね!(「メリークリスマスに省略されている言葉」参照)
遠 そうです。”I (or We) wish you a merry Christmas and a happy new year.” のように、クリスマスと新年の挨拶はセットでよく使われていますね。
今 あれ? でも、この元々の文章だと “a merry Christmas”, “a happy new year” と “a” が出てきていますね。”a” はいらないんじゃなかったでしたっけ?
遠 お祝いの言葉や挨拶では “a” はいらないんですが、文章のほうだと “a” がいるんです。
今 うえぇ、めんどくさい…。
“I wish you a happy new year.” に “a” が必要な理由
今 どうして文章の方だと “a” が必要なんですか?
遠 まず “a happy new year” と “happy new year” のイメージを確認しましょう。
今 ”a happy new year” のほうは実線で囲まれていて、”happy new year” のほうは点線でモヤモヤしていますね。これはどういう意味なんですか?
遠 ”a” という冠詞は、後ろに続く名詞の「輪郭」を先に設けておくような働きをします。「輪郭がある名詞」→「1つの数えられるモノ」ということですね。境界線を設けて、区別できるようにするような感じです。
今 ということは、”happy new year” のほうは境界線がないってことですか…。どこまでも広がっていくような?
遠 そうそう、そんなイメージですね。
さて、新年には人の数だけいろいろな新年があるはずですよね。その中でも「あなたが迎える幸せな新年」という区別されたモノを願うわけなので、”a” が必要なのです。
今 あー、なるほど。新年は複数あると考えるわけか。それに、同じ人であっても年の数だけ、いろいろな新年がありますもんね。だから “a” が必要なんですね。
“Happy New Year” に “a” がいらない理由
今 年賀状や挨拶で “a” がいらないのは、どうしてなんですか?
遠 その理由は、ネイティブ的には “A happy new year” と言われたら、主語のように聞こえてしまうからです。
聞き手からすれば、最初に “a” が出てきているので、これから話し手が話すことは「ある幸せな新年」に関することなんだろうと解釈します。そうしたいがために “a” で輪郭を設けて、区別して取り出しているんだろうと。
要するに、主題(subject)が “A happy new year” だと思ってしまうわけです。
今 うへぇ!? なんか、いろいろとすごい解説ですね。
…とりあえず、”A happy new year is …”(ある幸せな新年とは…)のように、次に動詞が続くような感覚になるってことですね?
遠 そうなんです。そのような誤解を避けるためにも、”a” をつけずに “Happy New Year” としているわけですね。
“Happy New Year” と “Good morning” の共通点
今 …うーん、解説としてはわかりやすいと思うんですが、それでも実際に使うときにそんなこと考えにくいですね。何かうまい方法はないでしょうか?
遠 ”Good morning” を思い浮かべると良いかもしれませんね。実は “Good morning” も元々は “I wish you a good morning.“(あなたが良い朝を過ごしますように)なんです。
今 えっ、そうなんですか!? なんか印象がずいぶん変わるなぁ…。
遠 ”Good morning” には “a” がついていないですよね。これを思い出してもらえれば、挨拶では “a” をつけないように意識できるんじゃないでしょうか。
今 なるほど。確かに “A good morning” なんて言わないですもんね。
しかし、”Good morning” が願うフレーズだったとは…。そうすると、”Good morning” に “Good morning” で返すのって、朝っぱらから願いまくりじゃないですか(笑)
遠 厳密に言うとそうですが、まあ実際には「おはよう」と同じ感覚ですよ。
日本語だって「さようなら」は「左様ならば、これにて御免つかまつる」に由来していますが、誰もそんな武士っぽい気持ちで「さようなら」の挨拶を使っていないですよね。
今 そりゃそうですね(笑)
遠 しかし…、省略することで表現の角を取って丸くしているのかもしれないですね。言葉って面白いですね。
お祝いの言葉として “A HAPPY NEW YEAR” が出てきてしまった原因
今 しかし、どちらかというと日本人って “a” を付け忘れてしまうことの方が多いと思うんですけれど、今回は逆にいらない “a” をつけちゃうってのが珍しいですね。
遠 この間違いって、実は英語圏でもあるんです。
今 えっ!? そうなんですか?
遠 英語圏のグリーティングカードに “Merry Christmas and a Happy New Year” と書かれているものがあったりするんです。
今 なんか、”Merry Christmas” は “a” がついていないのに、”a Happy New Year” は “a” がついてるとか、細かいことを気にしない僕ですら違和感を覚えちゃう表記ですね。
遠 憶測ですが、定番のクリスマスソングに出てくる “We wish you a merry Christmas and a Happy New Year.” の一部を切り取ったからでしょうね。
最初に “Merry Christmas” という挨拶が出てくるわけですが、その後はクリスマスソングに引きづられて “and a Happy New Year ~♪” が出てきちゃったんじゃないでしょうか。
今 うーん、刷り込みって怖いですね~(笑)
なんにせよ難しい話もありましたが、年賀状には “Happy New Year” を使うってことがわかって助かりました。ありがとうございました。
遠 どういたしまして~。
【事務局より】
途中で出てきた「冠詞」については、書籍『英会話イメージリンク習得法』でもう少し詳しく解説しています。ご興味ありましたらぜひどうぞ。
コメント
happy new year が merry christmas や good morning と同じように I wish you a ~ が省略された形であることを初めて知り、参考になりました。
A Happy New Yearになっているグリーティングカードを何度も使ったことがあったのでまさか正しくないとは思いもしませんでした。ですがGood Morningを例に出した説明はとてもわかりやすくしっくりきました。今まで年賀状で手書きの際にAを入れたりしていたので今後は気を付けたいと思います
理論的にはそのとおりなのでしょうが、感覚的にはよくわからないというのが、正直な感想です。
Happy New YearにはAがいらないというのは理解していましたが、理由が曖昧だったので、記事を読んではっきりと理解することができました。「新年が複数あると考える」からaが必要だという解説、また、挨拶にaが付いていると主語と間違われること、good morningと同じように考えれば理解しやすいことなど、とても分かりやすかったです。
Happy New Year頭にAを付けてる場合の方を頻繁に見る気がするんですが、間違った表現なのは初めて知りました。と言ってもHappy New Yearを単体で出す場合の話みたいなので、文章に入れる場合Aが必要でやっぱりややこしいですね。
もう少しシンプルにまとめられていれば良かったかな…
“A Happy New Year” に違和感を覚えるというのは私も同意でこの記事を興味を持って読むことができました。また、a の境界線の話は理解しやすい内容でした。さいごに、定番のクリスマスソングの影響でaがついてしまったという話はとてもおもしろかったです。
単に言いやすいからaをつけたりするだけでどの道それほど間違いとかではないと思う。
英語のやり直しで中学教科書の一文、「It’s a happy new year for…」から紆余曲折しここへたどり着きました。非常に納得、冠詞は奥が深いですね。最近そこそこ a や the が付いていたり付いていなかったりすると落ち着いたり、気持ち悪かったりするようになってきました。(感覚的に)ネイティブの1/100くらいは気持ちを味わい始めているかな…とか思います。この調子で 99/100あたりを目指したいと思います。