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※この記事は『受動態を基本から学ぼう!受動態の作り方も解説しています』の続きです。
英語の受動態は英会話ではそれほど使われないことをご存知でしたか?この記事では、英語における能動態と受動態の比較をして、そのうえで英語で受動態が使われるパターンについて解説しています。また日本語と英語における受動態の違いについても記載しています。
英語における能動態と受動態の比較
まず、英語の能動態と受動態のイメージを比較してみましょう。
例文2’:能動態:The cat chased the mouse.(その猫はそのネズミを追いかけた)
例文2:受動態:The mouse was chased by the cat.(そのネズミはその猫に追いかけられた)
例文4’:能動態:His friends call him ‘Tomo.’(彼の友だちは彼を「トモ」と呼んでいます)
例文4:受動態:He is called ‘Tomo’ (by his friends).(彼は(友だちに)「トモ」と呼ばれています)
能動態では「行為者+行為+宛先」で表されるものが、受動態では「主語の状態(行為を受けた状態)+by+行為者」で表されています。
このように形式は異なりますが、最終的に英文が描くイメージは大体同じです。
違いを挙げるとすれば、例文4の (by his friends) のように受動態では行為者が省略できるという違いがあるくらいです。
では、英語では能動態と受動態どちらも同じように使われているかというと、実はそうではありません。
普通は能動態のほうが使われています。特に会話では受動態はそれほど使われません。
そうすると、受動態はいったいどこで使われているのでしょうか。
英語で受動態が使われるパターン
受動態の働きから、英語ではどこで受動態が使われるのかを考えてみましょう。
受動態では行為者を省略できる
先に述べたように、受動態では行為者を省略できます。
例文4:受動態:He is called ‘Tomo’ (by his friends).(彼は(友だちに)「トモ」と呼ばれています)
これは行為者が重要ではなかったり、そもそも誰がやったのかが不明な場合、さらに行為者を明示したくない場合などに有効です。
実際に使われている受動態の多くは行為者が省略されています。
受動態では行為者を文末にもってこれる
行為者を省略していない受動態は、by を使うことで行為者を文末にもってこれます。
これは次の2つの場合に有効です。
- 行為者が新しい情報であり、最も重要な場合
- 行為者が長文であり、主語にもってくるには不適切な場合
行為者が新しい情報であり、最も重要な場合
Given and New information
英語で理解しやすい文章をつくる方法として「Given and New information」という考え方があります。
「Given information」とは「既に聞き手と共有している情報」のことで、「New information」とは「話し手が伝えたいと思っている新しい情報」のことです。
「Given and New information」とは、最初に「与えられた情報」をもってきて、英文の最後あたりに「伝えたい情報」をもってくるという方法です。
この方法を以下のある友人に宛てたメール文面で確認してみましょう。メールの前提として、一緒に新年会に行く予定だったのが、その友人だけ都合で行けなくなってしまいました。差出人は新年会がどうだったかをメールで伝えています。
例文8:The New Year’s party was successful this year. For dinner we had turkey and some special home-made ice-cream. The turkey was absolutely delicious, but the ice-cream was a disaster…
訳:今年の新年会は上手くいったよ。夕食にターキーと自家製アイスクリームを食べたんだ。ターキーはとっても美味しかったんだけど、アイスクリームは大惨事だったよ…
英文の出典 An A-Z of English Grammar & Usage P.179
黄色のハイライトが Given information であり、赤のアンダーラインが New information です。
こうすることで聞き手はスムーズに話し手の伝えたい情報を拾っていくことができます。
受動態で最も伝えたい行為者を文末にもっていく
受動態は「伝えたい情報」が行為者であるときに、その行為者を文末にもってきて、聞き手にスムーズに理解してもらえるようにする一つのテクニックとして使われます。
例文9:This painting is very valuable. It was painted by Van Gogh.
訳:この絵画はとても値打ちがあるものなんだ。描いたのはゴッホだからね。
英文の出典 An A-Z of English Grammar & Usage P.366
話し手にとって伝えたい情報が画家の名前(Van Gogh)である場合、このように受動態を使います。
話し言葉ではイントネーションや強調で表現できる
この「Given and New information」のテクニックは書き言葉ではよく使われますが、話し言葉ではそこまで使われません。
その理由は、話し言葉では「伝えたい情報」をイントネーションや強調によって示すことができるためです。
例文9’:Van Gogh painted it.(ゴッホが描いたんだよ)
最初に Van Gogh を強調しながら発話することで、用が足りてしまうというわけです。
行為者が長文であり、主語にもってくるには不適切な場合
行為者が長文の場合は、その行為者を主語にもってくると、聞き手にとって負担が大きくなります。
これは次の英文で確認してみましょう。
例文10:能動態:The boys and girls who received their education here will always support the school.(ここで教育を受けた学生たちはいつまでもこの学校を支援することでしょう)
例文10’:受動態:The school will always be supported by the boys and girls who received their education here.(ここで教育を受けた学生たちによって、この学校はいつまでも支援されることでしょう。)
実際の会話では主語の次に動詞がテンポよく出てくるものです。
そのため能動態のような英文だと、行為者の The boys and girls に対応する動詞がなかなか出てこないため、聞き手の負担が大きくなってしまうわけです。
このような場合、長いフレーズの行為者を文末にもっていく(=受動態にする)ことで聞き手の負担を軽減することができます。
受動態の使い方まとめ
受動態を使う場面は、大きく分けると次の2つになります。
- 行為者が不明 or 重要ではない or 明示したくないとき
- 聞き手に伝わりやすくしたいとき
後者は受動態を使わなくても通じることは通じます。そのため、英会話初心者の頃は努力事項として考えればよいでしょう。
つまり、実際に受動態を使うのは、行為者が不明または重要ではない場合、明示したくない場合ということになります。
さて、本来的にはその程度にしか使わないで済むはずの受動態ですが、私たち日本人は受動態を多用してしまう傾向があります。
どうしてそうなってしまうのかについても、最後に触れておくことにしましょう。
日本語と英語における受動態の違い
日本語では受動態が能動態と同じくらい使われている
実は日本語では受動態が能動態と同じくらい使われています。
それを次の日本語の例文で確認してみましょう。
例文11:能動態:銭形はルパンを捕まえた。
例文11’:受動態:ルパンは銭形に捕まえられた。
どちらも同じことを述べていますが、誰視点なのかが違っています。
例文11’(捕まえられた)はルパン側の立場から述べられた文章で、例文11(捕まえた)は銭形側の立場から述べられた文章です。
たとえば銭形警部の上司が、「ルパンはとうとう銭形に捕まえられたようだな」というセリフを言ったらおかしいですよね。
銭形の味方なのであれば「銭形はとうとうルパンを捕まえたようだな」となるはずだからです。
このように日本語では1つの事実に対する立ち位置の違いによって受動態と能動態の2つの表現が生まれます。
そのため、日本語の受動態は能動態と同じくらい使われるわけなのです。
英語と日本語の受動態のイメージの違い
私たち日本人は、日本語の特性から無意識に立ち位置を把握しながら物事を捉える癖がついています。
しかし、英語の世界観ではそのような話し手の立ち位置は考慮されません。
英語では「行為者+行為+宛先」という能動態の流れが基本だからです。
私たち日本人が自然な英語を身につけるためには、自分の立ち位置を一度外して、行為の流れを意識する必要があります。
そのうえで、行為者が不明だったり重要ではない場合、明示したくない場合に受動態を使うということになるわけです。
※このような日本語と英語におけるモノの見方の違いと変換方法については拙著「英会話イメージトレース体得法」にて詳しく解説していますので、ご興味ありましたらぜひどうぞ。
まとめ:日本語と英語における受動態の違い
日本語では受動態は能動態と同じくらい使われます。一方で、英語では基本的に能動態が使われます。受動態は以下の場合に用います。
- 行為者が不明 or 重要ではない or 明示したくないとき
- 聞き手に伝わりやすくするために行為者を文末に持っていきたいとき
- 行為者が新しい情報であり、最も重要な場合【Given and New information】
- 行為者が長文であり、主語にもってくるには不適切な場合
コメント
英語でどういった状況で受動態が使われるのかが記事からよくわかりました。行為者との関わりによることが主要因とは考えもしませんでした。さほど行為者が重要でないときのみならず、行為者を強調するために文末に持ってくるということも知らなかったので大変勉強になりました。
受動態が英会話ではそれほど使われないのは確かだと思いました。友人と話していてもこれまで気にしたことはなかったですが、確かに受動態で話しているイメージが少ない気がします。ただ、本を読んでいるとよく出てくる気はします。
この記事のように勉強というよりは文化っぽいことを学べる機会が多いと、英語に興味を持つ人が増えるような気がしました。
英語では話し手の立ち位置は考慮せずに、行為の流れを意識した能動態の方がよく使われるため、行為者が不明だったり新しい情報であったりする場合に受動態が使われる、という説明が納得しやすかったです。
英語の世界観は、行為者+行為+宛先という能動態の流れが基本であるため受動態は会話ではあまり使われないのに対し、日本語では受動態が能動態と同様に多用されるのは、話し手が自分の立ち位置を無意識に考慮するため発生するという指摘は、単に日本語と英語における受動態の違いということだけではなく、両者の発想の相違にまで及んでいて、実に興味深い解説記事でした。
英語における能動態と受動態はほぼ書き換えが可能と教わりましたが、会話のテンポを悪くする使い方があまり適切でないとされるのは興味深く思います。英語というのが、文字じゃなく会話主体の言語であるというのが透けて見えるので。
受動態の使い方が日本と異なるという点については納得ですが、日常会話でも受動態はよく耳にします。カナダに住んでいるのですが、カナダだからですかね?アメリカは使われないのでしょうか?行為自体を強調したい時はもちろんのこと、誰の行為かわからない時や、行為者に責任を負わせることを避けたい時によく使われています。
受動態が使われるパターンやGiven and New informationの項目の説明が分かりやすく、また例文の選択も非常に良かった。
日本語と英語の受動態のイメージの違いの項目も、「自分の立ち位置を一度外して、行為の流れを意識する必要がある」こと、その図解も、日本語の発想から英語の発想へイメージを切り替える仕方として、分かりやすく解説されていると思った。
英語で受動態が使われる場面というのが、行為者を省略したいときや行為者を強調したいときに使うということがよくイメージできました。受動態と能動態を完璧に使い分けることができるようになりたいです。これからは意識して使ってみたいと思います。
私も実際、英会話ではほとんど受動態を使いません。言い回しが面倒なことと、あまり必要性を感じていないからです。そのためこの記事は共感できましたし、記事の内容も受動態を知るために、とても良い内容でした。
英語で受動態が使われる場面がよく理解できました。行為者が不明または重要ではない時、逆に行為者が新しい情報で重要な場合、又は行為者が長文の場合など、それぞれの状況に合わせた例文解説がなるほどと思える内容で、とても勉強になりました。