著者からのメッセージ

なんてつまらないんだろう……

これは私が英会話学習を始めたときに、まず思ったことです。私は2010年から英会話の学習を始めました。当時はTOEICのスコアで言えば400点台程度だったと思います。

学生時代から英語は苦手教科でした。たとえば英単語を語呂で覚えていたのですが、単語を見て・語呂を思い出して・意味を思い出すという作業に手間取って、長文読解の問題ではいつも訳し終えずに時間切れになっていました。

そんな私が英会話学習をはじめたきっかけは「英会話ができるようになりたかったから」です。

漠然とした将来への不安と、英語くらいはできないと…という焦りのようなものに後押しされたのは確かですが、何か必要に迫られるような事情があったわけではありませんでした。

英会話学習を始めるにあたって、ランキングなどで上位にある英会話教材の特徴や価格を比較して「これは!」と思うものを、いくつか実際に購入しました。

ランキングを参考にしたのは、みんなが使っている英会話教材なら、私でも英会話が身につけられるかもしれないと思ったからです。

私が購入した教材のHPには、いかにも英語ができるようになりそうな素晴らしい理論や、著名人の推薦文有名なタレントやスポーツ選手の成功体験などが掲載されていて、「これなら私でも!」という期待を掻き立てられました。

英会話学習は「孤独」との戦い

ところが、届いた教材を開けてみると、目の前にあるのは音源のCD、英文と日本語訳、そしてごく簡単な英文解説のテキストだけ。

「本当に大丈夫かな…」と一抹の不安を抱えながらも、「これまでとは違う何かがあるかもしれない」と思って、実際に使って学習を始めてみます。

しかし、結果はこれまでとまったく同じ。そっけない英文と日本語訳、簡単な解説が続くばかりで、いくらやっても英語がわかった実感は得られません

HPで熱心にアピールしていた道先案内人の姿はどこにも見当たりません。「本当にこれでいいのかな…」という不安が頭をもたげてきます。

そうは言っても高い買い物なので、しばらくは頑張って続けます。しかし、その間も一人っきりであがいているような孤独さは拭えませんでした

最終的にはどの教材も、何となく忙しい日があって一時中断のつもりがそのままずっと触らなくなる、という結果になってしまいました。

英語がわからなくても触れ続けられる教材を

「これではダメだ!」と思い、少し方向を変えて、英会話ができるようになった人の共通点を徹底的に調べることにしました。

たくさんの事例に触れる中で「これだ」と思ったのは、英会話ができるようになった人の多くは「英語を学ぶ前に、洋画・洋楽・カートゥーン(欧米の漫画)などが好きだった」ということでした。

英語がわからなくても、映画や音楽、マンガ自体が好きだから、見たり聞いたり読んだりすることが苦にならない

何度も触れ続けているうちにあらすじ・内容を覚えてしまい、そこで使われている英語もわかってくる。それを繰り返すことでお気に入りの英語表現が増えてくる。そういう流れで英会話ができるようになった人が多かったのです。

「なるほど」と納得しました。しかし、問題は私にとって熱中できる洋画・洋楽・カートゥーンが見当たらなかったことでした。

そこで「これまでの教材の中に自分に合うものがないならば、作ってしまおう!」 そう思ったことが、この英会話エクスプレスを作ることにしたきっかけでした。

日本人が想像しやすいシナリオからスタート

英会話教材(英会話エクスプレス)のあるべき姿として私の頭に浮かんだイメージは、アニメの「サザエさん」や「ドラえもん」でした。

日本人であれば音声を消しても、画面を見ているだけでストーリーがわかる。そんな典型的な日本文化を題材にすることで、英語がそこまでわからなくても続けられる教材ができるのではないか、と思ったのです。

そこで、私はまず日本のありふれた親子の会話や友だち同士の会話などを題材とした日本語シナリオをつくりました。それから、その日本語シナリオをもとに翻訳会社にお願いして英文を作ってもらったのです。

日本文化と英語文化のギャップが至るところに姿を現す

英文を翻訳会社に作ってもらったとは言っても、その英文が正しいかどうかはこちらがチェックしなければいけません。英文のチェックは、日英バイリンガルでTOEICの試験問題などもチェックされている方にサポートをお願いしました。

この監修者の方とひとつひとつ日本語と英文がちゃんと対応しているかをチェックしていったわけですが、そのとき指摘されたのが、「磯野家の会話」や「のび太とジャイアンの会話」の中には英語に訳せないものがたくさんあるということでした。

例えば、英会話エクスプレスには以下のような場面が出てきます。

大和が玄関の引き戸を引いて、家に入ります。
大和 こんにちは。おじゃまします。
智一 いらっしゃい。外暑かったやろ。上がって。

この大和のセリフである「おじゃまします」という日本語をどう訳すか。翻訳会社につくってもらった英文では “May I come in?” となっていました。それを最終的には次のようにしました。

N Yamato slides open the front door.
Yamato Good afternoon.     
Tomokazu Hey, welcome. It’s so hot today, isn’t it? Come on in.

そうです。「おじゃまします」自体を思いきって省略したのです。監修者には、この「おじゃまします」を英語に訳そうとする発想自体が、英会話の上達をじゃまする原因なのだ、と言われました。

※監修者によると、翻訳会社は抜けのないように翻訳してくるのが一般的なので、このあたりはどうしても発注側が調整しなければいけない箇所なのだそうです。

なぜなら、英語文化圏では相手から”Come on in.”(中に入って)と言われる前に、「おじゃまします」と言いながらドアを開けることはないからです。文化として存在しないのだから、当然表現としても存在しないというわけです。

このように、日本人に親しみやすい会話を英語にしようとすると、日本文化と英語文化のギャップが至るところに姿を現しました。それ自体が日本語発想を英語発想に切り替える作業だったと言ってもよいでしょう。

「磯野家の会話」や「ジャイアンとのび太の会話」がこのような日本語と英語のギャップを気づかせてくれ、自然な英語がどういうものなのかを意識させてくれるのに、たいへん役立つことがわかってきたのです。

こうして、出来上がったのが『英会話エクスプレス 第一版』でした。制作プロジェクトを始めてから一年後のことでした。

英文スクリプトと日本語訳で構成

初めて英語に対して親近感を抱けた

「さあ、これを使って英語の勉強をしよう。そして、これで自分が英会話ができるようになったら頑張って販売していこう!」 そう思い、出来上がった英会話エクスプレス(第一版)を使って学習を始めました。

ただ、一人だけではサボってしまう可能性があったので、英会話教室のマンツーマンレッスンを契約し、毎週ストーリーを丸暗記して、ネイティブ講師の前で暗唱することを9ヶ月間行いました。

我ながらそんな過酷なことをよくやったものだと思いますが、その結果、英語に慣れてきた実感を得ることができました。

元々イメージしやすい題材でテキストをつくったこともあり、実際の会話でその場に合うフレーズをある程度口にすることもできるようになりました。英語に苦手意識をもっていた私が、ようやく英語に対して親近感を抱けるようになったのです。

丸暗記しただけでは、実際の英会話では使えない

一方で、丸暗記の限界も感じていました。というのも、覚えたフレーズそのままであれば使うことができましたが、応用して使うことができなかったからです。英語表現のニュアンスをつかみきれていなかったのです。

そこで、本腰を入れて販売していく前に、英語表現のニュアンスをはっきりさせるのに役立つ「解説」をプラスすることにしました。

大学で言語学を研究していたアメリカ人の女性に協力をお願いして、特に日本語とのニュアンスのズレが大きい英語表現に焦点を当てて、確認をしていきました。

具体的には「こういう状況ではこの表現は自然なの?それとも不自然?」ということを確認していく地道な作業です。このようにしてネイティブの感覚を解説に盛り込んで出来上がったのが『英会話エクスプレス 第二版』でした。

テキストブックと解説冊子

無理なく続けられる構成に修正

制作プロジェクトを開始してから、すでに二年以上が経過していました。私は「これで、ようやく英会話で困っている多くの日本人学習者を助けることができる!」と思い、勢い込んで友人たちにモニターとして使ってみてほしいと依頼しました。

私としては当然、最大級の評価が返ってくると期待していたのですが、実際のレビューは想定よりもかなり低いものでした。

  • ストーリーはイメージしやすいけど、英文と日本語訳だけだと厳しい
  • 研究レポートみたいで、疲れているときには読みたくない
  • 音読の効果はわかるけど、暗記するとなると続ける自信がない

ショックでした。私の場合は制作者ということもあり、教材の良し悪しを検証するという目的があったのでクリアできた部分が、モニター参加者にとっては高いハードルとなっていたわけです。

はっきり言えば、長時間の学習に耐えられるマッチョ向けで、内容も深掘りをし過ぎていたため、結果的に商品としてはイマイチだったわけです。

そこで、専門の編集者の手を借りて、無理なく学習を続けられる構成に変更していきました。

  • 最初に全体のイメージをイラストで提示する。
  • 深掘りしすぎているところは削除し、気軽に読めるようにする
  • 音読などの回数は指定せず、ノルマはすべて取り払う
  • だいたい1セクション15分程度で学習できるようにする。

このようにして出来上がったのが、現在販売している『英会話エクスプレス 6ヶ月コース』(第三版に相当)です。

英会話エクスプレス 6ヶ月コース

「ネイティブの友だち」のような存在として

この文章を書いている時点(2015年10月)で、制作を始めてから約5年が経ちました。この5年間のあいだに私は多くの方に支えられてきました。

  • 英語と日本語のギャップをチェックしてくれたバイリンガルの英文監修者
  • 解説づくりで細かい質問に丁寧に答えてくれたネイティブの大学院生
  • 最終的な原稿を確認してくれた多くのネイティブたち

私にとっては、彼らが英語の世界への道案内をしてくれたのです。そして、この英会話エクスプレスはそんな彼らとのやり取りを収めたものです。

だからこそ、いま私は「英会話エクスプレスはどんな教材なのですか?」と聞かれたときに「英会話ができるようになる教材」とは言わないことにしました。皆さんが英語の世界へ入っていく橋渡しという意味で 「ネイティブの友だち代わりとなる英会話教材」と言うことにしたのです。

  • 先生のように○×をつけない。同じ目線で話してくれる。
  • 英語の感覚を教えてくれるけれど、テキトーさも兼ね備えている。
  • しんどいときに一緒にいてくれるけれど、ベッタリした関係でもない。

あなたと『英会話エクスプレス』のご縁が深まり、あなたが英語と大の仲良しになってもらえたら、著者として嬉しい限りです。