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前節で述べた「静と動に分類して英文を理解する方法」を使って、旧来の英文法では説明しきれなかった英文を解説していきます。
【1】強調構文
Kaho | There you go again. You’re always worrying about your job like that. |
Chiho | I mean, I’d be causing trouble for my coworkers, and… |
Kaho | Don’t you think that your thinking like that is one of the causes of your stress? Don’t get me wrong. I do admire your sense of responsibility. |
From「Two Friends on Vacation to Mont Saint-Michel」Story.1『Let’s go on a vacation!』 |
I do admire your sense of responsibility.
この文で注目してほしいのは「do admire」と「動・動」となっていることです。これらが合わさってひとつの「動的な矢印」をつくります。しかしdoとadmireそれぞれの役割は何なのでしょうか? それを考えるためにまずはイメージ図を確認してみましょう。
イメージ図では最初の動の do を「→do」と描いています 。二番目の動の admire は「admire→」となっています。「→do」の矢印は I(私)を「引っ張る」役割を持っており、次の「admire→」の矢印はadmireという動作を your sense という「的にあてる」役割を持っています。
この例文は I admire your sense of responsibility. という文の「admire(賞賛する)」を強調したものです。現在形の動詞 admire を助動詞 do と動詞の原形 admire の2つにわけることで、引っ張る役割と的にあてる役割を明示しているのです。 そして do を強く読むことで admire という行為を強調します。
助動詞の役割は多岐にわたりますが、そのひとつに前に置かれた単語を引っ張る働きがあります。静的なモノを引っ張ることで「何がどうする」という意味を生みだし、その行為を現実のものにするのです。
動詞の原形とは第6章で述べたようにコンセプトであり、現実世界に姿を表していない行為です。それは、動詞の原形は前に置かれている単語を引っ張ることができない、という意味でもあります。
日本語訳 | |
夏帆 | ほらほら、千穂はそうやって、結局、仕事のことを気にしてる。 |
千穂 | だって、同僚とかに迷惑かけるし……。 |
夏帆 | そうやって考えてしまうことも、ストレスの原因になっているんじゃない? 誤解しないでね。千穂の責任感はすごいと思っているのよ。 |
「モン・サン・ミッシェルOL二人旅」Story.1『旅に出よう!』より |
【2】疑問文
Taro | Did Shinichi’s mother say anything? |
Keiko | She said that you were a nice boy with good manners. |
Taro | See, I told you! |
Keiko | There must be some mistake. You’re only well-mannered outside this house. |
From「A Heartwarming Family」Story.4『Talking on the phone with a friend』 |
Did Shinichi’s mother say anything?
これは疑問文と呼ばれるものです。なぜ助動詞を主語の前にもってくると疑問文になるのか、みなさんは不思議に思ったことはありませんか? ここでその疑問を解消してしまいましょう。まずは例文を静と動で捉えるとどうなるかイメージで確認してみます。
さきほど述べたように助動詞は引っ張る役割、動詞の原形は的にあてる役割です。「引っ張って、的にあてる」という流れはセットになるので、Didからsayまでがひとつの動的な矢印となります。
その動的な矢印のあいだに静的なモノであるShinichi’s mother(主語)が置かれています。このように動的な矢印は静的なモノを通過して、その先に続くことがあります。
イメージ図では最初の動であるdidは「→do」、二番目の動であるsayは「say→」と描かれています。「say→」の矢印はsayという動作をanythingという的にあてる役割を持っています。
では「→do」の矢印の役割は何でしょうか?
これは実は「聞き手を引っ張っている」のです。
聞き手を引っ張ることで「信一のお母さんは何も言わなかった?」ということを質問しています。疑問文で助動詞が前にもってこられる理由は、このような助動詞の引っ張る役割にあったのです。
日本語訳 | |
太郎 | 信一のお母さん、何か言ってた? |
恵子 | 太郎くんは、優しくてお行儀が良くていい子だって。 |
太郎 | だろ? |
恵子 | 人違いじゃないの? ほんとにそと面だけはいいんだから。 |
「ほのぼの家族」Story.4『電話で人と話す』より |
【3】want+人+to do
Kato | (calling to Yuko to talk to her) Oh, Ms. Konno. I need you to do something for me. It’s urgent. |
Yuko | Yes, Mr. Kato. What is it? |
Kato | Since I have to leave for a client’s office, I want you to deliver the documents in this envelope to the department head. |
From「Yuko’s Work Hours」Story.2『Mr. Kato asks Yuko an urgent favor』 |
I want you to deliver the documents in this envelope.
この例文は第2章で取り上げた I want you to go to the supermarket. と同じ形式の英文です。そのときに「英文は単語を並べることで流れをつくる」と述べましたが、静・動で表したらどうなるのかを確認しておきましょう。
イメージ図にある動的な矢印(A)(B)の役割は次のようになります。
(A) Iをwantの矢印が引っ張ってyouにあてる。
(B) youをto deliverの矢印が引っ張ってthe documentsにあてる。
このようにひとつの動的な矢印ごとにひとかたまりの動作が対応しています。そのため動的な矢印に注目することで意味のかたまりが捉えやすくなるわけです。
ここまでto deliverをひとつの動的な矢印として扱ってきましたが、その理由も説明しておきましょう。toは「到達点を含む矢印」が基本イメージです。toと述べた段階で矢印が引かれますが、この矢印が you を引っ張る役割を果たしています。またtoの到達点であるボックスに動詞の原形deliverが入りますが、この動詞の原形がthe documentsという的にあてる役割を果たしています。
「助動詞(引っ張る)+動詞の原形(的にあてる)」と同じように、「to(引っ張る)+動詞の原形(的にあてる)」という形式になっているのです。だからto deliverをひとつの動的な矢印として扱っていたわけなのです。
ここで注目してほしいのはyouです。イメージ図を見ていただいてもわかるようにyouは動的な矢印(A)ではobject(あてられるモノ)ですが、動的な矢印(B)ではsubject(引っ張られるモノ)でもあります。このように英語では1つの単語に2つの役割をもたせることがあるのです。
日本語訳 | |
加藤 | (優子を呼び止めるように)あ、今野さん。申し訳ない、急いで頼みたいことがあるんだけど。 |
優子 | はい、なんでしょう、課長。 |
加藤 | これから取引先にあいさつに出かけることになってね、この封筒に入っている書類を部長に届けてほしいんだ。 |
「新人優子の仕事の時間」Story.2『急ぎ頼まれた課長からの用事』より |
【4】SVOC
N | Taro flings the door open and goes inside the house. |
Taro | I’m home. I made plans with Shinichi, so I’m going out. |
From「A Heartwarming Family」Story.3『Going to a friend’s house』 |
Taro flings the door open.
この例文はthe doorとopenという静的なモノと静的なモノが並んでいます。文法ではSVOCと呼ばれる型の英文ですが、この文型の背後にある自然さはどういったものなのでしょうか? イメージ図から確認していきましょう。
イメージ図にある動的な矢印(C)(D)の役割は次のようになります。
(C)Taroをflingの矢印が引っ張ってthe doorにあてる。
(D)the doorを見えない矢印が引っ張ってopenにあてる。
突然「見えない矢印」がでてきましたが、ふたつの動作を連続して行ってみてください。見えない矢印(D)の正体はthe doorを通過した動的な矢印(C)の余波であることがわかるはずです。このように英語では動的な矢印が「的」を通過して、その先まで影響を及ぼすことがあります。
この流れの英文を日本語の「てにをは」を当てはめて理解しようとすると、かえって厄介なことになります。Taro flings the door open. のthe doorはflingの目的語(=ドアを)であると同時にopenの主語(=ドアが)でもあるからです。
英語をそのまま理解できるようになるためには、英語を読むときに頭の中で英単語のお尻に「てにをは」を付けるクセを止めなければなりません。単語のつくりだす流れで理解していく必要があるのです。
日本語訳 | |
N | 太郎が乱暴にドアを開けて家に入ってきました。 |
太郎 | ただいま~。信一と遊ぶ約束したから、行ってくるね。 |
「ほのぼの家族」Story.3『友達の家に遊びに行く』より |
【5】使役構文
Keiko | (Measuring with her hands) I’d like a bottle of olive oil this big. |
Taro | Can’t you just use regular oil? |
Keiko | It has to be olive oil! Here’s some money. |
Taro | You’re really making me work. |
From「A Heartwarming Family」Story.1『Errands』 |
You’re really making me work.
この例文はmeのあとに動詞の原形workが並んでいます。文法では使役構文と呼ばれる構文の1つですが、この背後にある自然さをイメージ図などから確認していきましょう。
イメージ図にある動的な矢印(E)(F)の役割は次のようになります。
(E)Youをare really makingの矢印が引っ張ってmeにあてる。
(F)meを見えない矢印+workが引っ張る。
今回は見えない矢印とworkが組み合わさっています。ここでも見えない矢印(F)の正体はmeを通過した動的な矢印(E)の余波です。この場合はmeなので、正確には私の胸にぶつかって跳ね返った勢いといったほうがいいかもしれません。この勢いがmeを引っ張る役割を果たしています。そして動詞の原形workの矢印はあて先がないので、動作をそのまま流します。
ここで注目して欲しいのはYou’re really making me work. に I want you to deliver the documents. で引っ張る役割を果たしていたtoがないということです。このようなtoの有無はよく使われる表現かどうかが関係しています。「聞き慣れている表現だから、もうtoはなくても理解できるだろう」という感覚です。そういう慣用の力があるので、makeの場合はtoがなくてもmeを引っ張ることができるのです。
なお、この使役構文もかつては「make 人 to do」の形をとっていたようです。実際にシェイクスピアの戯曲には「make 人 to do」形式の英文が見受けられます。
make の他にto を必要としない動詞としてlet、have、helpなどがあります。かつてのネイティブが感じたように「わざわざ声に出して言うのも面倒くさいな」という気持ちを意識しながら、to を入れなくなった使役構文に慣れていっていただければと思います。
日本語訳 | |
恵子 | (手でサイズを作り)これぐらいの大きさのオリーブオイルをお願いね。 |
太郎 | 別に普通の油でいいじゃん。 |
恵子 | オリーブオイルじゃなきゃダメなの! はい。お金。 |
太郎 | 本当に人使い荒いんだから。 |
「ほのぼの家族」Story.1『おつかい』より |
【Coffee Break】
今井 僕が最初に英会話を勉強し始めて困ったのが「何々して欲しいなあ」っていう表現なんです。友だち相手に「それを取って欲しい」とかって言うときなんですけど、「Would you…?」とかだとおかしいんですよね(笑)
遠藤 すごく丁寧に依頼してる感じになりますね。
今井 そうなんです。ちょっと距離感がありすぎるみたいですね。「Would you mind…?」とかって言うと「え、何?」ってなってしまうんです。だから友人同士で「それを取って欲しい」とかっていうときは I want you to pass it to me.とかって言うんですけれど、これが不思議だったんですよ。あんまりこの言い方って僕は学生時代に習った記憶がなかったので。だから本当に自分自身が使うときになってI want you toとかって言うと、ちょっと違和感があったんですよね。
遠藤 なるほど。おそらく I want you というふうにそこで意味をとってしまうと「あなたが欲しい」になってしまうと思うからですね(笑)
今井 そう。それを男とかに言っちゃうと、ちょっと危ない感じですよね。でも英語ではひとつの単語に2つの役割をもたせることがあると聞いてようやく納得できました。want がyou を通り越して to pass まで影響しているようなイメージですね。
他にも「ちょっと俺に説明させてくれよ」とかって言う場合はlet me explainなんですけど、それも動(let)→静(me)→動(explain)となって理にかなってるなぁと感じました。
遠藤 そうですね。日本人が理解しにくいのは「受けて流す」部分だと思います。I want you to deliver the documents. で述べたように、youの部分が2つの役割を担っているところです。youがwantを受けながら、さらにyou to deliverで「あなたが運ぶこと」というふうに行為の主体になる。日本語的にはどうしてもそう解釈せざるを得ないんですよね。
今井 風車みたいな感じですよね。
遠藤 そうそう、回っているんですよね。それをI want youで止めてしまうと、そこで止まってしまうから「あなたが欲しい」となってしまって、聞く人によっては「勘弁して下さい(笑)」となるわけです。ただ普通ネイティブは「I want のあとに人がきたら、そのまま流すだろう」と思うから、次の言葉を待つわけなんですけどね。
そのようにyouで止めずに言葉を続けることで、youがそのままの流れで次のto deliver the documentsにいくわけです。このように英語は単語を並べていって話の流れをつくっているんです。
今井 そう考えると「てにをは」を外した片言の日本語で理解するぐらいに留めておいたほうがいいって気がしますね。例えば「I shot an enemy.」を綺麗に日本語訳するんだったら「私は敵を撃った」ですが、それを「私、撃った、敵」に留めてその不自然さに慣れるべきですね。
遠藤 ここは私たち日本人が越えなければいけない壁だと思います。今井くんはネイティブと英語で話しているときに日本語訳していないですよね?
今井 してないです。
遠藤 そうですよね、全くしないはずなんです。しかし、初心者は日本語訳をしてしまうんです。聞くときも話すときも日本語と対応させてしまうわけです。この癖が抜けない限り英会話はできないと言ってもいいと思います。
この章でなぜこんなに英語の原始的な構造を説明したかというと、英語を英語のまま理解できるようにするためです。「てにをは」のない英文の意味がわかるようになるためなんですね。
最初から英語を英語のまま理解できない部分はあると思うので、今井くんの言ってくれたような単語の直訳を並べるというステップも必要だと思いますが、徐々にI want you to deliver the documents. と言われたら、そのまま日本語訳せずに「OK.」と答えられるようになってもらいたいわけです。そして日本語訳を考えなくても「実際に英単語を並べたら意味の通じる英文がつくれた!」ということを徐々に経験していってほしいのです。
究極は「なんか勝手に英語が口から出てきちゃった」となるのが一番だと思います。日本語訳なんて全く思い浮かんでないけれども言いたいことが口から英語で出てくる。そういうふうに日本語が介在する度合いが低くなっていけばいくほど英会話はしやすくなってくると思います。
今井 僕はもう口から勝手に英語が出てくる感じですね。ただ、こうなったのはもともと僕が怠け者だということが一番の原因だと思っています。
遠藤 どういうことですか?
今井 5、6年前にどうしても英会話をやらなくてはいけない状況に追い込まれたんですが、そんな状況でも何とかして楽をしたいと考えていたんです。それであるときに「そんなに正確じゃなくてもいいや」と思って、日本語に戻って確認することを止めてしまったんです。
すぐにカチッと切り替わるわけじゃないんですけどね。それでも「なんか面倒くさいな」って思い始めてきたころは、日本語で考えなくなった割合が増えてきてるときだったと思うんです。今になって思えばですけれど。
そうすると、もう僕は楽なほうに流れてしまうので「ああ、じゃあもういいや」という感じで英語を話すときには日本語を考えなくなっていって。最終的に英語だけで話しているし、聞いているという感じになったんです。
遠藤 今井くんはある意味すごく正しい順序で英会話の習得を進めることができたのだと思います。しかし面白いのは、今井くんは英語が読めないというところです。英語を話せるのに読めないなんてことが、あり得るのかと日本人は思ってしまうわけですけれどね。
私たちは学校教育で「読む、読む、読む」をやっているのでその延長線上に「話す」があるんだと勘違いしてしまっています。しかし、実際には必ずしも「読む」延長線上に「話す」があるわけではないのです。第二言語の場合は同時進行的に学ぶパターンが多いのですが、少なくとも読めなければ話せないなんていうことは絶対にありません。
話を戻すと、英語を話すためにはどこかのタイミングで日本語訳から離れないといけません。徐々に徐々に減らしていかないといけない。今井くんの場合は怠け者だったから功を奏したんだと思います。でも英語を話せるようになった人は、実際はほとんど同じパターンだと思います。気がついたらそのまま日本語訳せずに話すようになっていたという。
どうしてかというと、日本語的なものの見方と英語的なものの見方はやはりずれているからです。1つの物事を2つの方向から同時に見ることはできないですよね。現実を違う順序で同時に捉えることもできません。どちらか1つに絞られてくるのは当然です。日本語と英語を同時に両立させようとすると、いつまでたっても英語の世界に浸れなくなってしまいます。英語を使うときは日本語をいったん捨てるという気持ちが必要になってくると思います。
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