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前節で述べたように、日本語と英語の大きな違いはプレイヤーを表すモノが画面上に見えているか見えていないかでした。これを英語では「subject」、日本語では「主語」と呼んでいます。
【1】subjectの基本イメージ
subject のsubは「下へ」という方向を表す接頭語です。jectは「投げる」とか「置く」という意味です。したがってsubjectで「下へ投げる/投げられたもの」「下へ配置する/配置されたもの」になります。これがsubjectの基本イメージです。
そこから「支配を受ける」というニュアンスが発生します。例えば「British subjects」と言えば「イギリス臣民」という意味になります。
また15世紀くらいから音楽や絵画などの「テーマ」という意味でも subject が使われるようになりました。これはsubject matterのmatterが省略されたもので、芸術の表面には出てきていないけれども、その底流に流れているテーマや主題を表します。
さらにsubjectは「実験の被験者」や「容疑者」という意味にもなります。
このようにsubjectには「受ける」というイメージがあります。支配を受ける、芸術の底流に置かれる、実験を受ける、疑いを受けるなどすべて「受ける」のニュアンスが感じ取れます。
【2】subjectと主語の間のズレ
このようにsubjectには「受ける」というニュアンスがありますが、「主語」という訳語にはそのニュアンスがありません。この訳語のために私たちはsubject のイメージを正しく捉えられなくなっています。
英文法のsubjectはこれから話すことをポンと足元に投げ落とすようなイメージです。日本語の「主語」という言葉から感じられるような「行動する主人公」というものではないのです。
subjectはこれから話すことをポンと足元に投げ落として、話がそこからスタートすることを示すものです。「主語」という訳語にとらわれずにsubjectのイメージをつかむようにしてください。
【Coffee Break】
今井 アメリカ人の友だちが言ってましたけど、「怒られる」っていう言い方は英語ではあんまりしないらしいですね。英語では「僕が怒られる」じゃなくて、「誰々が僕を怒る」っていうふうに言う。日本語だと、さっきの一人称ゲームで考えれば画面上の敵が僕を攻撃したときに、僕から見た景色は「僕が攻撃される」つまり「僕が怒られる」ですもんね。
しかし、インベーダーゲームのほうでは「敵が、攻撃する、僕を」つまり「誰々が、怒る、僕を」となりますよね。そこがやっぱり違うなと思いました。
遠藤 「僕が攻撃される」という文からわかるように、日本語の場合は自分が場に入り込むので、「(画面上の)敵」を言葉として表現しなくてもだいたい伝わります。しかし英語の場合は自分を場から切り離すので、「画面上の敵」からスタートしているのであれば、そこから始めるのが普通なのです。
英語で受け身を使うのは行為者をぼかしたいときや行為者がはっきりしないときです。つまり、結果しか伝えたくないときや結果しかわからないときに使うわけです。そういう意図がないときはあまり使いません。私たちが日本語でよく使っている感覚でネイティブが受け身を使っているわけではない、ということは知っておいたほうがいいでしょうね。
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