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英語の過去形とは何なのか、イメージを交えながら代表的な用法を解説します。
目次
【1】pastの基本イメージ
過去形は英語でpast formといいます。pastが日本語の「過去」にあたります。pastはもともと動詞pass(すぐそばを通り過ぎる)の過去分詞passedが変化したものです。過去分詞なので「(すぐそばを)完全に通り過ぎ去った状態」がpastの意味になります。
ここからpastの基本イメージは「遠くに離れている」になります。まずこのイメージを頭に入れておいてください。
【2】遠くに離れている感覚で使う
過去の行為を表す
N | Keiko notices that Taro is holding a paper bag. |
Keiko | Taro, what’s that? |
Taro | It’s manga. I borrowed it from Shinichi. |
Keiko | That many? Make sure you take good care of things that people lent you. |
From「A Heartwarming Family」Story.4『Talking on the phone with a friend』 |
I borrowed manga[01]itをmangaに置き換えています from Shinichi.
本文のイメージは次のようになります。borrowed(borrowの過去形)部分の左から右への矢印が過去として表されていますが、これを時間軸で捉えるとpresentからpastに離れたところでの行為となります。
このように過去形は単純に時間的な過去のことを表すときに使われます。
日本語訳 | |
N | 恵子は太郎が手に持っている紙袋に気づきました。 |
恵子 | 太郎、それ、何? |
太郎 | 漫画だよ。信一が貸してくれたんだ。 |
恵子 | そんなにたくさん? 人から借りたものは大事に扱いなさいよ。 |
「ほのぼの家族」Story.4『電話で人と話す』より |
過去の状態を表す(いまは違う)
Keiko | (Noticing something) Huh? |
Taro | What is it? |
Keiko | You ate a piece of the pork cutlet, didn’t you? |
Taro | No. |
Keiko | Don’t act like you didn’t. There were 13 slices. |
Taro | You got me. |
From「A Heartwarming Family」Story.6『Practice run at making curry』 |
There were 13 slices.
本文のイメージは次のようになります。were(be動詞の過去形)が過去を表しています。時間軸で捉えるとpastという離れたところでの状態となります。
この例文は過去のことを述べていますが、「いまは違う(=13個ではない)」ことも暗に含んでいます。この例文が使われているストーリーをもう一度確認してみてください。
前の例文I borrowed manga from Shinichi. と There were 13 slices. は同じ過去形にも関わらず、なぜこのような「現在」に関してニュアンスの違いが出るのでしょうか。
それはborrowedとwereという動詞の違いから生まれています。
I borrowed manga from Shinichi. は borrow(借りる)という「行為」が過去のものであると言っています。現在マンガをもっているかどうかにはまったく触れていません。
いっぽうThere were 13 slices. はThere are 13 slices. という「状態」が過去のものであると言っています。そこには当然現在は違う状態だというニュアンスが含まれています。
このように状態を表す動詞と行為を表す動詞では過去形のニュアンスが異なってきます。
なお、I borrowed manga from Shinichi. でいまは違う(=マンガを返した)ことを言いたい場合は追加で言い足します。例えば I borrowed manga from Shinichi and I brought back it yesterday. と言葉をつなぎます。
日本語訳 | |
恵子 | (何かに気付き)あれ? |
太郎 | どうしたの? |
恵子 | あんた、トンカツつまみ食いしたでしょ? |
太郎 | ううん。 |
恵子 | とぼけても無駄よ。13切れあったんだから。 |
太郎 | ばれたか。 |
「ほのぼの家族」Story.6『カレー作り予行演習』より |
【3】相手と距離を取って丁寧さを表す(依頼表現)
さきほど過去形は「遠くに離れている感覚」のときに使われると説明しました。この感覚は過去形を使った丁寧な依頼表現に応用されています。
Will you go to the supermarket for me?
Would you go to the supermarket for me?
どちらも相手に依頼している表現ですが、ニュアンスには違いがあります。
willは「確信度の高い思い」を表していたので疑問文にしたときには相手の「確かな思い」を聞くことになります。そして現在形なので「Will you go…?」という表現は相手の目の前に存在する思い(相手の本音)を聞くような率直な物言いになります。
そこで現在形willの過去形であるwouldの登場です。過去形は離れている感覚であると述べましたが、その離れている感覚をイメージで確認しましょう。
上図のイメージ図にあるようにpresentの位置にあったwillと同じものをpastの位置に遠ざけたものがwouldです。
そのためwouldは過去における「確信度の高い思い」を表すという本来の意味の他に、willがpresentから「遠くに離れる」ことによってwill の輪郭のシャープさが和らいで「ぼんやりした思い」というニュアンスを表すこともできます。過去の思いになるわけではありませんが、生々しさを和らげる効果があるのです。
このように会話を円滑に進めるために距離を取って、聞き手の受け取り方を和らげる働きが過去形にはあります。
過去形を使うことで丁寧な表現になるという感覚は私たち日本人にもよく理解できます。ファミリーレストランの店員などが言う「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」も現在のことをあえて過去形で言うことで表現を和らげて丁寧な感じを出しています。
【4】現実と距離を取って気持ちを込める(仮定法)
丁寧な言い方以外にも過去形を使うことでさまざまな気持ちを表わすことができます。
N | Keiko is folding the laundry in the living room. Taro is reading manga next to her. |
Hanako | Wah, wah. |
Keiko | Taro, can you go check on Hanako? |
Taro | What? I’m busy right now. |
Keiko | (Sarcastically) You could study instead. |
Taro | (Stands up quickly) OK, Hanako. Do you want me to change your diaper? |
From「A Heartwarming Family」Story.4『Talking on the phone with a friend』 |
You could study instead.
couldはcanの過去形です。canの基本イメージは「人やモノが可能性を秘めている」になります。「することができる」「する可能性がある」といった能力や可能性を述べる時に使われる単語です。
現在形canの過去形であるcouldはpresentの位置にあったcanをpastの位置に遠ざけたものです。
例文を直訳すると「あなたは代わりに勉強することができた」となります。このセリフがどのような文脈で使われているのか、今回はここで日本語訳を確認しておきましょう。
日本語訳 | |
N | 恵子がリビングで洗濯物をたたんでいます。その横で太郎は漫画を読んでいます。 |
花子 | オギャー、オギャー。 |
恵子 | 太郎、ちょっと花子見て来てくれない? |
太郎 | えーっ! 今、忙しいんだよ。 |
恵子 | (嫌みっぽく)別に勉強してくれてもいいのよ。 |
太郎 | (すばやく立ち上がり)さあ、花子~。お兄ちゃんがオムツ替えてあげるからな。 |
「ほのぼの家族」Story.4『電話で人と話す』より |
日本語訳は「(嫌みっぽく)別に勉強してくれてもいいのよ」となっています。なぜこの例文がこのように解釈されるのでしょうか。それを考えるために英文をイメージで捉えてみましょう。
例文はcouldという過去形を使うことでpresent(目の前に存在する状況)から離れている状況を表しています。しかし、このセリフの前は恵子がTaro, can you go check on Hanako?と現在形で太郎に聞いており、太郎もWhat? I’m busy right now.と現在形で返していました。
そこへいきなり恵子がYou could study instead.と過去形を持ち出しているのです。お互いに「現在」の話をしていたところ、恵子が「過去」にあえて離れさせているわけです。この状況をイメージ図にしてみると次のようになります。
恵子は過去形を使うことで現実から距離を取っています。そして、presentにできた余白に「現実にはありえないことだけど」という嫌みっぽい気持ちを込めているわけです。
このような表現方法は日本語にもあります。たとえば「宝くじが当たっていたらなあ」というセリフは過去形を使うことで現実から距離を取って、その余白に話し手の気持ちを込めています。このように日本語でもありふれた表現なのと同じように英語でも特に複雑な言い回しというわけではありません。
文法ではこの用法を「仮定法」と呼びます。仮定法と聞くと難しく感じますが、「遠くに距離を取る」という過去形の基本イメージから派生したものでしかありません。
また、文法では仮定法には反語的な訳を付け加えて説明します。例えば、さきほどの「宝くじが当たっていたらなあ」という例文に対して「宝くじが当たっていたらなあ(しかし、実際には当たっていない)」のようにカッコで反語的な訳を加えたりします。
しかし、仮定法はつねに反語的に訳さなければいけないわけではありません。話を present から past に移すことで生まれた余白に話し手がどんなニュアンスをこめるかは話し手の気持ち次第、文脈次第です。それを汲み取るように注意してください。
【Coffee Break】
今井 willを過去にすると「丁寧な依頼を表す」というのが面白かったですね。「Would you…?」という表現は学校でも丁寧な言い方だと習ってはいるんですよ。でも現実感が伴わなくて、字面でしか理解していませんでした。「相手との距離を取ることで丁寧さを表現している」という説明を聞いて、なるほどと納得できました。
遠藤 距離を取った表現を使わないと聞き手に衝撃を与えてしまうのは想像に難くないはずです。ストレートにぶつけられちゃうとやっぱり嫌ですよね。
今井 「Will you go …?」が「行ってもらえる?」で、「Would you go …?」が「行っていただけますか?」という訳になるっていうのは、なんかちょっと面白いですね。
遠藤 その面白さってひとつひとつの英単語が日本語に対応していないと気が済まない人にとっては、ある意味気持ち悪いことでもあるんですよね。私がそうだったので(笑)
今井 日本語にはさまざまな敬語がありますよね。その敬語にあたるものが英語ではこの過去形なんだと思うんですが、これらは字面の上ではまったく別の表現になりますものね。
遠藤 そうですね。異なる言語間ですべてがきれいに対応するなんてことは最初から期待しないほうがいいと思います。ひとつひとつの表現が日本語に対応しないことがある、むしろそれが普通であると思ってもらえたらと思います。
今井 わかりました。あとは「現実と距離を取って気持ちを込める」ところで、文法書に反語的な訳がついているのは、文脈がなくてもわかりやすくするためではありませんか。
遠藤 そうでしょうね。ただ、そういう習慣がついてしまうと、いつも反語的に捉え過ぎるようになりかねません。「この形の英文はこういうふうな日本語訳をつける」と杓子定規に考えると相手が言いたいことを大きく勘違いしてしまう可能性があります。
今井 話し手の意図とは別のところが強調される感はありますね。
遠藤 過去形を使うことで現実とのあいだに距離を取るわけですが、そのあいだにどのような気持ちを込めるのかは話し手次第です。文面に明示しないからこそ使い勝手がいいわけです。同じ文面でも話し手の言いたいことはイントネーションや強調の仕方で変わってきます。
今井 そうですね。型にはまった受け取り方ではなくて、そこに話し手がどんな気持ちを込めているのかを捉えるべきですね。相手の気持ちを汲み取ることが会話の本質ですから。
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