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前節で英語には「先に結論、後で説明」という特徴があり、日本語には「先に周辺、後で結論」という特徴があることを説明しました。ここでは、その特徴についてより詳しくイメージを交えながら解説していきます。
【1】「SV」は結論部分
「先に結論、後で説明」という英語の表現方法はたとえるなら水面に石を投げ込んだときに、中心点から周辺に向かって波紋が広がっていくようなイメージです。英語を話す人はそのような順番で物事を見ているともいえます。
一方、日本語には「先に周辺、後で結論」という大きな方針があることを述べました。日本語は周辺情報を述べてから結論に近づいていくという動きをします。
さらに日本語は結論を述べないで終わらせることもあります。みなさんも何が言いたいのかよく分からない日本語を聞いたことがあると思いますが、日本語ではそのように結論部分を言わずに、はぐらかしてしまうことがあるわけです。
英語では「先に結論」なので、そういうはぐらかしがしにくくなっています。もちろん、はぐらかす言い方がないわけではありませんが、「先に結論」という大きな方針があるので日本語と比べると意思表示がはっきりする傾向があります。
【2】「V」の後にくるもの
さて、ここでは動詞の後にはどんな単語がくるのかという話をします。第0節で音読を行ったときに「and opens」でいったん止めてもらいましたね。この動詞opensの次に何の単語がきたか思い出してみてください…。
そう、答えは「the door」です。
Taro comes home from school and opens the door enthusiastically.
しかし、なぜenthusiastically(元気よく)ではなくthe doorのほうがしっくりくるのでしょうか? それは動詞opens がその行為を受けるthe door をせっかちに要求しているからです。とくにenthusiasticallyを強調したいという場合でも、opens と言ってしまった以上はすぐにthe doorと続けなければなりません。
ネイティブはopensと言ったすぐ後に、その行為を受けるthe doorがこなければ、opensという行為が宙に浮いてしまうように感じるのです。
このように動詞の後ろには、その動詞が要求する単語がきます。また動詞によっては何も単語を要求しないものもあります。つまり、動詞が英文の流れを決めているのです。
その流れも私たちが理解できないようなものではなくて「普通に考えれば、この動詞の後にはこれがくるだろう」と予測できるような自然さを含んでいます。文法を学ぶというのはそのような自然さを理解することなのです。
【Coffee Break】
今井 英語は結論から入る、日本語は周辺から入るというのは面白いと思いました。英文読解のときに行う「返り読み」はこの違いからくるのですね。大学受験の読解などでよく使った「行って返って、行って返って」というやり方です。しかし、このやり方は英語を理解する方法としてはあまり良くないと思います。
遠藤 返り読み的な英文の理解だと話すときはもちろん、聞くのも難しいですからね。会話では音が次から次へとやってくるわけで「ここは括弧をくくって、前の単語に掛けて…」とかやっていると、とても間に合いません。
当然ネイティブは、文字にすれば左から右への流れのなかでしか理解していません。だから私たちも同じように、左から右への流れのなかで英文を理解することを目指さないといけません。
一朝一夕にはいきませんが、私たちもそれができるようになります。そのためには英語をもっとシンプルに捉える必要があります。英文法の参考書は難しそうに書かれているので、英語は複雑だと考えがちですが、実際はそうではないということを知ってもらいたいと思います。
今井 よく新しい学習理論に基づく英会話教材みたいな広告がありますよね。「脳科学で実証された画期的な英語学習法!」とか。ああいうのってどうなんでしょう。
遠藤 英会話に挑戦して挫折した経験のある人に「この方法ならうまくいきますよ!」ということをアピールしているんでしょうね。しかしその教材を使ってうまくいく人もいれば、やはりうまくいかない人もいると思います。英会話を習得するのにとくに新しい理論は必要ないのです。
今井 この本は「新しい理論」ではないのですか?
遠藤 実はたいへん新しい理論です。
今井 それを早く言ってもらいたかったですね(笑)どんな理論なのですか。
遠藤 本書の場合は理論というよりも習得法ですが、その方法はたいへんシンプルで「英語表現に含まれている自然さを感じ取ろう」ということです。文法から英語を理解するのではなくイメージから英語を理解する。返り読みせずに左から右に流れてくる言葉通りに理解していく。これは日本人にも習得できるはずです。
今井 英語に含まれている自然さについては僕も感じたことがあります。僕はこれまで5年以上、英語を話しているんですが、英会話に慣れてきたころに自分の英語が「なんか違うな」って感じたことがあったんです。
ネイティブに「今の変だよね?」って聞くと「変だ」って言われて。それで何がおかしいのか考えてみるわけです。それはいわば机の上を指の腹でずーっと触り続けていると、どこかで感覚が研ぎ澄まされてきて、「ここにでこぼこがある」ってわかるようになる感覚なんですね。その感覚があると自然と修正できるようになってくるんです。
セリフって川の流れみたいなものだと思うんです。うまくいっているときはすーっと流れているんですけど、間違えているときはどこかに石とか岩がある。でも英会話を始めたころはわかんないから無視してしまうんですね。
ただ、間違いを含んだセリフを繰り返していると、あるときその流れがどこか不自然だということに気づくわけです。けっこう不思議な経験だったんですけれど、英語表現に自然さが含まれていると聞いて、なるほどと納得できました。
遠藤 そのような自然さが背後にあるからこそ、今井くんも自分が話している英語の不自然さに気づけたのだと思います。その流れを遮っていた石や岩というのは、日本語の世界では自然なものだったのかもしれません。それがついつい英語のほうに入ってきてしまうのです。
英語を学ぶときにはそういった「日本語の干渉」があります。だから日本語がうまい人ほど英語が学びにくいとも言えます。
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