§10-2 枠のある表現

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※本記事は書籍『英会話イメージリンク習得法』の一部をWeb公開したものです。

前節では英語ではモノを表現するときに外枠から中身の順番で表すと述べました。日本語ではこの外枠を無視してしまうので、英語を日本語訳するときも大体訳出しないで済んできたわけです。

しかし英会話ではこの外枠を無視するわけにはいきません。英語には外枠を表現する a などの言葉が現にあり、どんな会話にも出てくるからです。そこで、ここではその代表的な外枠である「one」と「a」と「the」の3つを取り上げて基本イメージを解説していきたいと思います。

【1】one(数詞)

One chicken is crossing the road.

この例文が表す情景は前後の文脈によって変わってきます。しかし、文脈なしにこの文を見たとき、まずどんなイメージをもつかを考えてみましょう。

日本人なら、単に1羽の鶏が道路を横切っている状況が頭に浮かぶと思います。その絵にはもちろん鶏は1羽しか登場していないでしょう。しかしネイティブの多くがこの文を読んだときに思い浮かべるのは、何羽かの鶏がいてそのうちの1羽だけが道路を横切っているような状況です。

ずいぶんイメージが違いますね。日本人は one から「1」という以上のニュアンスを受け取りませんが、ネイティブはそれ以上の「唯一」とか「独自」というニュアンスを受け取ります。

「唯一」は「数いる鶏の中で唯一この鶏だけが」という量的な1です。「独自」は「ほかの鶏は野原でミミズをあさっているのに、この鶏は独自の行動をしている」という質的な1です。そういった「1」を強調するニュアンスが「one」の基本イメージです。

このoneは外枠なので、oneと述べたときに唯一や独自を表す外枠が設定されます。次のchickenでその枠の中にchickenを入れます。こうしてone chickenで「複数の鶏がいて、そのうちの1羽の鶏だけ」というイメージが生じるわけです。

それでは英文を見てネイティブが思い浮かべる状況ではなく、反対にネイティブがそういう状況を見て、この英文のように描写するプロセスを分析してみましょう。

まずネイティブが「複数の鶏がいて、そのうちの1羽の鶏だけが道を横切っている」という情景を見たときに、どのようにその情景を捉えるかというと、「1つだけ明らかに違うことをしている物体が存在している」と捉えます。

いま「物体」と表現したように、この段階ではネイティブはその物体が鶏であるのか、別の例えば犬や猫であるのかといった中身は厳密に言うとまだ考えていません。見ているのに考えていないというのは少し変ですが、あくまで「1つだけ違うものがいる」ということをネイティブは思うわけです。その1つだけ浮き上がっているものに対して「唯一・独自」という意味合いをもった「one」という外枠を使うわけです。

【2】a/an(不定冠詞)

A chicken is crossing the road.

このa/anは日本人にとって非常に理解しにくい単語です。まずは成り立ちから探っていきましょう。

不定冠詞a/anは数詞oneと語源が同じ単語です。ちなみに、いまでもフランス語では不定冠詞unと数詞unは同じ1つの単語です。つまり元々1つの単語だったものが英語ではa/anとoneにわかれたのです。だからa/anとoneはお互いに補いあう関係にあるともいえます。

oneと語源が同じなので当然a/anも数字の「1」に関係しています。oneは「唯一・独自」が基本イメージでしたが、もう一方に分化したa/anの基本イメージは何なのでしょうか。

a/anは「普通」とか「典型的」というニュアンスを表します。このa/anが表す「普通・典型的」はどこにでもある、よくあるような1つのモノを表しています。oneのような「唯一・独自」を強調するニュアンスと対極にあるのがa/anの基本イメージなのです。

それでは例文に戻って解説をしましょう。まずaは外枠でした。aと述べたときに普通や典型を表す外枠を設けるわけです。次のchickenでその枠の中にchickenを入れます。

したがって「1羽の普通の鶏が道を横切っている」が直訳で、自然な日本語訳にすると「鶏が道を横切っている」となります。

それではネイティブが「1羽の普通の鶏が道を横切っている」という情景を見たときに、どのようにその情景を捉えるか考えてみましょう。

ネイティブがこのような情景に出くわしたときは「よく見かける外見の生き物がいる」と捉えます。この段階ではネイティブはまだその物体が鶏かどうかは考えていません。「これまでになんか見たことがあるぞ」「どこにでもいそうだな」というような感覚から、「普通・典型」という意味合いをもった「a」という外枠をもってきます。

そのあと外枠aに対して中身にchickenを入れることで「1羽の普通の鶏」を表現しているわけです。

この場合はoneと違って、周りに他の何かがいるのかどうかはわかりません。このaが言っていることは特別ではない、普通の、どこにでもありそうな外見のモノがあるというだけなのです。

これを日本語訳するときには「1羽の普通の」という部分は訳出しません。そもそも日本語では外枠を無視してしまうので自然な日本語にしようとするなら、そこを無視しないと「1羽」や「普通」という意味が強く出てきてしまうからです。

このように日本語では無視される部分なので、どうしても日本人には馴染みにくいものです。実際の会話では、モノをパッと見たときに輪郭があればたいてい a を使っていればよく、何か特別な場合のみ one を使うようにするとよいでしょう。

【3】the(定冠詞)

N Taro comes home from school and opens the door enthusiastically.
Taro Mom, I’m home.
Keiko You’re back. You’re just in time. Will you go to the supermarket for me?
Taro Aw, I don’t want to.
From「A Heartwarming Family」Story.1『Errands』

Taro comes home from school and opens the door enthusiastically.

theは指示語のthatと語源を同じくする単語です。つまり the door は a door のようなどこにでもある普通のドアではなく、話し手と聞き手の間で「あのドア」という了解が成り立っているドアです。お互いの間で同じものを指さす、つまり「ひとつに定まる」が theの基本イメージです。

このように話し手だけではなく聞き手にも依存している点でtheはaやoneとは違っています。theは外枠なので話し手がtheと述べたときに、話し手と聞き手がお互いに同じものを指さしているような枠を設けます。その枠の中にdoorを入れるのです。

話し手はthe doorと述べるときに「学校から帰ってきて開けるドアなんだから、the doorが玄関であることくらいは当然聞き手もわかるだろう」と思っています。

もちろん、話し手が「当然、相手はわかるだろう」と思ってtheを使っても、聞き手のほうはそのtheが何を指しているのかわからないことが起きたりします。話し手の一人合点や傲慢さが the の使い方に表われることもあるでしょう。さらに文化が違えば常識も変わってしまうので、日本人がネイティブの会話で出てくるtheをちゃんと捉えるのは慣れるまで大変です。

しかし、そういうことは日本人同士の会話でもあることです。「ねぇ、あの本返してくれない?」「あの本って?」などという会話は珍しくありません。

いまthe door(玄関)という具体的なモノについて説明をしてきましたが、theは具体的なモノだけではなく抽象的なコトも表すことができます。the problem(その問題)や the idea(その考え)といった抽象的な事柄を指す場合はもちろんですが、一見具体的なモノを指しているようでいて、実はそうでない場合があります。

Will you go to the supermarket for me?

この日本語訳は「おつかいに行ってくれない?」です。このtheのところで話し手と聞き手が同じものを指さしてひとつに定まる枠を設けて、その中にsupermarketを入れます。

問題はこのthe supermarketが何を意味しているかです。おそらく多くの日本人はお互いがあのスーパーとわかる「特定のスーパーマーケット」を指していると思うでしょう。しかし、この文脈では「the supermarket」は「特定のスーパーマーケット」ではなくて、「(買い物をする場所である)スーパーマーケット」を表しているのです。

「あのスーパー(例えば、近くのイオン)に行ってくれない?」という意味ではなくて、どのスーパーでもいいから「(買い物をする場所である)スーパーに行ってくれない?」と言っているわけです。ここから「おつかいに行ってくれない?」という意味になるわけです。

つまり、このtheは一見すると具体的なモノに思えるsupermarket という名詞をその枠に入れていますが、具体的なモノを指しているわけではなく、supermarketの機能という抽象的なコトを指しているわけです。このような抽象的なコトを指す例をもうひとつあげておきましょう。

I will go to the doctor.

これを日本語訳すると「医者に診てもらいに行くつもりです」となります。「あの医者に行くつもりです」という意味ではないのです。

the doctorは「特定の医者」を表しているのではなく「(診察をする人である)医者」を表しています。つまり、人物としてのdoctorではなく注射をしたり手術をしたりする医者の「機能」や「コンセプト」を指しているのです。

もちろんthe doctorが「特定の医者」を表すこともあります。ただし、その場合は「I will go to see the doctor.」(あの医者に会いにいくつもりです)のように微妙に表現が変わります。

このように「the」というのは具体的なモノと抽象的なコトの両方を指すことができます。そしてtheがどちらを指しているかは話し手の言いたいことや、その言葉を使う集団の常識に依存します。theは言葉を多く尽くさなくても済むようにするためのものなので、省略されている部分が必ず発生しています。そこを理解することが聞き手に求められているのです。

日本語訳
太郎が元気良く玄関を開け、学校から帰ってきました。
太郎 ただいま、お母さん。
恵子 おかえり。ちょうどいいところに帰って来たわ。おつかいに行ってくれない?
太郎 え~。やだよ。
「ほのぼの家族」Story.1『おつかい』より

Coffee Break

※Coffee Breakのコーナーのイメージを知って頂くために、本項のみCoffee Breakを掲載させていただきます。Coffee Breakでは、著者の遠藤とアシスタントの今井が直前の内容について対話をしています。

遠藤 枠のある表現というところでone、a/an、theという3つを取り上げて説明をしてきました。ここの部分で何か質問はありますか。

今井 意外とoneが難しかったですね。鶏がたくさんいて、その中で1羽だけ外れて道を横切っているという話でした。説明されると「なるほど」とは思うのですが、それをOne chicken is crossing the road.だけから発想できるかというと難しいですね。

遠藤 文脈がないと日本人には難しいでしょうね。ネイティブもたいていは1羽だけ外れている状況を思い浮かべますが、みんながみんなそう考えるわけでもありません。

例えばOne chicken is crossing the road. Two dogs are sleeping under the tree. Three men are running along the river.という文章では、one chickenは「1羽の鶏」を表しているだけで、そこまで強い「唯一・独自」のニュアンスを表していません。

このようにその単語が使われている文脈のほうが、その文の意味に与える影響は大きいのです。本書で述べていることも、多くの文脈ではそのように解釈することができるという大まかな方向を述べているだけです。

そのため、みなさんにはやはり文脈という「全体」をまずは理解してもらいたいと思います。そこから単語の基本イメージや単語の配置によって生じる意味という「部分」を理解して、また全体に戻るというモデルで学んでいってください。

今井 文の背景はとても重要ですよね。文法さえ理解できていれば大丈夫という態度だと、そういう背景を知ることが面倒くさくなると思います。しかし、それでは結局ニュアンスがつかめなくなってしまいますよね。

遠藤 その通りですね。英会話とは結局はセリフの背景やセリフの表している現実を知ることですから。そこを軽視していては英会話ができるようにはならないのです。

少し話が変わりますが、冠詞について学校では「名詞にaやtheをつける」と習います。これは良くない教え方です。単語の流れからみても冠詞は名詞につけるものではありません。正しくは冠詞の枠に名詞を入れるのです。

当然ですが、名詞にaやtheをつけているようでは英会話で a や the を使いこなすことはできません。冠詞抜きの文章をつくって、そこから名詞に冠詞をつけるといった複雑なことを会話でやっている暇はないのです。

だから英語の「モノ」の見方、つまり「まず外枠、次に中身」に少しずつ慣れていく、そういうふうに見る癖をつけていくという姿勢が必要です。そうしないと a/anやthe、oneなどを自分のものにするのは難しいと思います。

今井 冠詞の a の説明で「複数あると想定されるものの中から1つを取り出して述べるときに使う」と教わった記憶がありますが、なんかよくわからなかったですね。

遠藤 文法書ってときどきそういう訳のわからないことを言うから、みんなに嫌われるんです(笑)例えば I have a pen.と言った人が「このペンは複数あるようなペンの集合から1つを適当に取り出したものだから」と考えて aを持ち出してきたなどということがあるわけがありません。

そうではなくて、単純に「普通だな」とか「そこらへんによくあるな」とか「特別じゃないな」という気持ちで、aを使っているだけなんです。英会話で大切なのは aをそのように捉えて使うことです。

もちろん結果として「複数あるようなペンの集合から1つを適当に取り出した」ことになっていますが、さきにそのようなことを考えて文をつくっているわけではないのです。

今井 シンプルに話す順、聞こえる順に理解していけるような説明でないと納得出来ないですよね。

遠藤 英語に「KISS」という言葉があります。「Keep It Simple, Stupid!」の頭文字を取った標語なのですが、意味は「もっとシンプルにしろよ、バカ!」です(笑)

もし英語の文法書を読んでいて複雑な部分があったら、この言葉でこき下ろすと精神衛生上いいかと思います。それくらい上から目線で文法書に向かい合ってもらいたいと思いますね。

※Coffee Breakは節ごとに設けています。もし他の節のCoffee Breakコーナーにもご興味ありましたら、ぜひ『英会話イメージリンク習得法』をご覧いただけますと幸いです。

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§10-3 枠のない表現
無冠詞で用いられる名詞は、ある意味「名詞そのもの」を表していると言えます。ここでは、そのような名詞そのものについて解説します。